モードにおける美の問題について

 1968年の革命は、オート・クチュールを退けてファッションの主役の座にプレタポルテを押し上げました。しかし、その背景には美の創造的破壊という問題があったように思われます。

 '60年代末期に始まる叛乱の時代は、三島の美を、やがては川端の美を、日本の伝統的な美を滅ぼしていきます。その革命の廃墟の後にプレタポルテの花が咲くのが'73年頃と言えるかと思います。丁度この頃、川久保玲(1942-)が東京青山でコム・デ・ギャルソンのブランドを設立しました。その後の活躍についての詳述は他に譲るとして、モードの世界で性差それ自体の解体に挑んだデザイナーと言えるのではないかと思っています。

 それでは、あらゆる既存の価値体系の破壊の後に、伝統的な美の滅びの後に、性差の解体の後にモードにおいて美は可能なのでしょうか?この困難な問いに直面しているのが現在と言えるのではないでしょうか?

 ここでルネサンス期に立ち戻ってみたいと思います。ギリシャ・ローマの古典古代の美との対話を通して、神中心の中世的世界観から人間中心の世界観を復活させた文化運動でした。このルネサンスの美と現代の工房におけるクラフト的生産との対話を通して、美の革新の可能性を模索していきたいと考えております。

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