アルティザンの記憶

 ヴェネト州ヴィチェンツァにあるDEL CONTE社を訪ね創業者のブルーノ・アヴェール(1957-)に取材した。彼は高校卒業後機械工として働き始めるが、バッグ職人への思いは止まず22歳でバッグ工房に転職する。5年ほどの修行の後、1984年27歳のときバッグメーカーを創業した。

 ヴィチェンツァは、建築家アンドレア・パラーディオ(1508-1580)によるルネサンス様式の建築群で有名で代表的な作品としてオリンピコ劇場、ロトンダを初め多数現存する。彼が幼少の頃、友達のジャンフランコと遊んだのがパラーディオによるルイジ・ダ・ポルトの邸宅の広い庭であった。しかし、ジャンフランコは家族と共に南米のヴェネズエラに移住してしまう。ブルーノは、一緒に遊んだ幼いころの思い出から友人の姓DEL CONTEを社名に用いた。

 また、この邸宅の主であったルイジ・ダ・ポルトこそシェークスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」の題材となる作品を書いた人物で、作品の舞台は隣街のヴェローナである。

 ルネサンス建築とその空間の中で紡ぎだされる物語、北イタリアの濃密な人間関係の記憶の中からブルーノはデザインを創造する。こうしてルネサンスの精神は、アルティザンの記憶の中に生き続けている。

ヴィチェンツァにて

2012年3月10日

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