クラフト的生産

 工房(Bottega)では、一枚のデッサンから様々な道具を使ってバッグというオブジェが作られていく。アルティザンによるクラフト的生産(工芸)である。カソリック教徒が伝統的な職業に従事し、プロテスタントが新しい産業に従事している統計的数値に着目し『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を著したのは、マックス・ヴェーバーであった。しかし、大量生産と大量消費の資本主義が限界に達した現在、ルネサンス期にまで遡るクラフト的生産の価値を再評価し、その伝統に安住することなくデザインの革新に挑むアルティザンに敬意を表したい。

ルイジ・ダ・ポルトの邸宅

 写真は、ヴェネト州ヴィチェンツァにある建築家アンドレア・パラーディオ(1508−1580)作による邸宅である。この邸宅の主であるルイジ・ダ・ポルトこそシェークスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』の元になる作品を書いた人物で、それはこの邸宅の中で書かれたと考えられている。悲恋の物語の舞台は、隣町のヴェローナである。

 ブルーノ・アヴェール(1957−)は、幼い頃この邸宅の前庭で友達のジャンフランコと遊んだ。しかし、その楽しい日々はやがて終わってしまう。なぜなら、彼は家族と共に南米のベネズエラに移住してしまったからである。ブルーノは、会社設立にあたって、幼い頃の思い出からその友人の姓DEL CONTEを社名に用いた。

アルティザン

 ブルーノは、高校卒業後機械工として働き始めたが、バッグ職人への思いは止まず22歳で工房の見習いとなった。5年の修業の後、1984年27歳で独立した。イタリア北東部のルネサンス建築とその空間の中で紡ぎだされる物語、幼い頃の濃密な人間関係の記憶の中からブルーノは、デザインを創造し、形にする現役のアルティザンである。

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