「第三のイタリア」とルネサンス工房

 「第三のイタリア」(註1)とは、フィレンツェ、ボローニャ、ヴェネツィアを中心とする中部、北東部七州の地域一帯を指す。イタリアと言えば、ロンバルディア平原三角地帯のミラノ、トリノ、ジェノバといった北部工業地帯と停滞する南部という南北対立の構図で語られることが多い。しかし、こうしたステレオタイプな見方に対して、職人的中小企業が地域に集積し、ネットワークを形成した「イタリア的生産システム」とも呼ぶべき特質を備えているのが「第三のイタリア」なのである。

 産地の起源は、ルネサンスの時代にまで遡るとされる。それでは、ルネサンス工房(註2)から現代の「第三のイタリア」の工房に受け継がれている遺伝子とは、何であろうか。弊社の取扱うバッグという製品に即して考察してみよう。

 まず、ルネサンス工房からの遺伝子的要素として、職人的デザイナーが素材を手にするとき、皮革や布の生地の柔かさや肌理の感触からインスパイアされるオブジェのイメージであろう。素材サプライヤーと容易に連携し得る地域ネットワークが築かれているからこそ可能な特質と言える。最初にデッサンがあり、大量生産に適した均質な素材を調達し、労働コストの低い諸地域で量産する場合とは全く異なる。こうした職人による少量生産は、オリジナルの持つオーラの喪失を最小限に止めることを可能とするであろう。

 更にルネサンス期の諸作品には、「聖と俗が渾然一体」(註3)となるという特徴があるとされる。その遺伝子は「第三のイタリア」の工房の作品において、ヨーロッパ現代思想がモードという鏡に映るデザインにありはしまいか。現在のそれは、デザインにおけるポストモダン、脱構築といったことになるのであろうが・・・。

 アメリカ型の地域文化を除外した所で成立するグローバルな生産体制、またフランス流のブランド帝国とは異なる「第三のイタリア」の職人的工房で創出される秀逸なデザイン。その作品の数々をウェブサイトというメディアにおいて、持ち得る限りの技能を駆使し全国の皆様に配信したいと思います。

<参考文献>

  • (註1)『イタリアの中小企業戦略』(岡本義行)、『現代生産システム論』の第6章「イタリア・モデルの特性と展開」(児山俊行)を参照
  • (註2)『ルネサンスの芸術家工房』(ブルース・コール)を参照。
  • (註3)同上。

2006年9月25日

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